水素重水素交換質量分析(Hydrogen/Deuterium eXchange MassSpectrometry: H/DX-MS)法は、タンパク質の相互作用構造同等性評価などのタンパク質高次構造解析に非常に有用な解析手法です。

HDX with LEAP PAL System and SYNAPT G1 (Waters)

相互作用では、抗原–抗体のようなタンパク質間相互作用のみならず、低分子化合物とタンパク質間の相互作用についても解析可能です。特にエピトープマッピングにおいて有用であり、他の手法(点変異法、SPOT法など)と比較しても迅速で、さらにconformational epitopeの決定も可能です。

構造同等性評価では、バイオ医薬品の製造ロット間における溶液中立体構造の同等性評価や、バイオ医薬品の後続品であるバイオシミラーと先発品との構造同等性評価を行います。

H/DX-MS法では、ターゲットタンパク質の分子量に制限はなく、またラベリング等の作業工程を必要としません。さらに、X線構造解析よりも迅速にタンパク質の構造情報を取得することができます。H/DX-MS法は、重水中に存在するタンパク質で起こるアミドプロトンの水素から重水素への交換反応を経時的にモニタリングすることで、タンパク質の構造変化タンパク質間の相互作用部位を明らかにする手法です。

以下に、実際にH/DX-MS法を用いた①タンパク質相互作用解析と、②構造同等性評価の例をご紹介します。

タンパク質相互作用解析

H/DX-MSを用い、受容体型チロシンフォスファターゼの1種であるPTPRZのICR領域(PTPRZ-ICR)とその阻害剤である低分子化合物SCB4380との相互作用解析を行いました。他の手法を用い、PTPRZ-ICRとSCB4380の結合は確認されていましたが、どちらの領域(D1、D2)に結合するのか、また、その結合部位については不明でした。そこで、H/DX-MS法による相互作用解析を行ったところ、複合体の方が重水素交換度の低いペプチドが2本検出されました。この結果から、SCB4380はD1に結合することが明らかとなり、さらにその相互作用部位も同定されました。

タンパク質構造同等性評価

H/DX-MS法を用い、抗体の加熱ストレス脆弱部位の同定を行いました。

まず抗体の示差走査熱量測定(DSC)を行ったところ、CH2領域が50%変性する温度は65℃でした。その後、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を用いた試験から、65℃で生じる凝集体は、単量体に解離する可逆性の凝集体(可溶性凝集体)であることが明らかになりました。

この可溶性凝集体を含む画分について、H/DX-MS法を用い、未処理サンプルとの構造同等性比較を試みました。可溶性凝集体を含む画分に見られる構造変化部位は、加熱ストレスにもっとも敏感に反応し、改変Lumry-Eyringモデルで提唱されている凝集体形成機構の凝集核を形成する際に伴う構造変化領域と考えられます。単量体画分の抗体では、未処理サンプルとの間に差が見られなかった一方で、凝集体画分の抗体では、構造変化している領域が4箇所確認されました。この領域が、加熱ストレス脆弱部位であり、凝集核を形成する引き金となる構造変化領域と考えられました。

測定方法内容
エピトープ決定抗原のみの重水素交換速度と、抗原 – 抗体複合体の重水素交換速度を比較し、速度低下が見られた領域を抗体と結合する抗原性を持つ部位であるエピトープ候補として決定します。
同一タンパク質 立体構造比較バイオ後続品の先行バイオ医薬品との構造同等性を明らかにする場合や、同一タンパク質のロット間での構造同等性を明らかにする場合に実施します。2 状態間で重水素 交換速度の差が見られた領域が、溶液中での構造に差がある領域と判断します。
タンパク質-低分子相互作用解析タンパク質のみの重水素交換速度と、低分子 – タンパク質複合体の重水素交換速度を比較し、速度低下が見られた領域を低分子化合物のタンパク質への結合部位として決定します。
タンパク質間相互作用解析単量体の重水素交換速度と、ヘテロタンパク質複合体の重水素交換速度を比較し、 速度低下が見られた領域をヘテロタンパク質複合体の結合部位として決定します。 単量体での調製が可能な場合は、ホモ二量体の結合部位も決定することができます。

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